March 27, 2010
長期不況のなか、政治も司法もそして弁護士(会)も大きく転換しつつある状況において、新しいシステムをつくる方法として糸川先生の提唱された創造性組織工学の考え方をご紹介したいのです。それは、「一人の天才よりも異質の凡人の組み合わせで天才以上の能力を!」の標語に端的に示されています。新しい商品やシステムを創造するためには、異質な人の交流、異なるシステム・物の組み合わせが不可欠であると同時に、それを行なえば必ず新しい発想が出てくるということです。
 その考え方のエッセンスを紹介します。まず、「ペアシステム」という言葉で表わされる組織論があります。二人ずつの組み合わせによって組織をつくる、そのような組織こそ現実対応力があるということです。その二人は、異質の能力や経験を有する人であることがポイントです。そのパートナーの資質の中から、自分にはない特徴を見つけ出して尊重することにより、ステレオタイプ化しかかった考え方の中心が移動するでしょう。これをデセンター(中心を変える)と言い、新しい視野を与えてくれるはずです。

 次に、組織が新しい分野に挑戦してシステムを創りあげようとするとき、誰かが、利害にとむ多くの人をまとめる役割を担わなければなりません。そのような人材をプロフェッショナル・マネージャー(PM)と呼びます。NGOとしての弁護士会の運動において、常に切実な需要と同時に不足を感じるのが、このPMに当たる人でしょう。
 PMは、たとえて言うとやきとりの串です。串は、いろいろな異なる中身を一つにまとめる役割として、なくてはならないものですが、プロジェクトにおいて自己主張を抑制しつつ、目的達成後は用済みとされてしまいます。個性的なリーダーと違い評価されないことも多いけれども、それを覚悟で活動できるひと、周囲からもその役割を期待され信頼されるひとが求められます。この点弁護士は、一般に自己主張がつよく、その主張の基準も区々であり、最近では会としての調和音を聞くこともなくなり、われこそが正義だと自負している人の集まりのようでもあります。しかし、いま大きな時代の転換期において、そのような人材の中から利害を超越して新しいシステムを創造しようとする多くのPMが輩出されることが期待されます。
 未来予知のなかに「ケースD」という言葉があり、将来の最悪の事態を予測して、あらかじめその原因を除去することができれば、その懸念は現実にはならない(プロジェクトは成功する)ということです。では、弁護士会のケースDは、・・・。
 弁護士業務は、司法書士、弁理士、税理士、社会保険労務士などの隣接専門職業人との関係において枠がなくなって溶解します。簡裁判事、特任検事・副検事が準弁護士となり、被疑者弁護や法律扶助を拡充させるために、法律事務所の足りない地域の家裁・簡裁では刑事事件を含めて準弁護士や司法書士が円滑な手続きを担っています。法曹一元の理想と逆行したかのような浸透圧が弁護士会にかかることとなり、企業(内)弁護士、公務員弁護士、各地方に設置された国立法律事務所の勤務(準)弁護士など、会に所属する価値を認めない会員が激増し、弁護士法が改正され、入退会は自由となって会費納入の義務はなくなります。弁護士供給過剰のなかで、弁護士会の自治は崩壊し、プロフェッションとしての特性はついえます。

 ここで視点を変えて歴史の大きな波動を鳥瞰すると、生きる目的つまり幸福追求の基準により、三つの相(時代)に分かれます。第一は国家の時代で、明治維新以来の国が強くなれば国民は幸せになれるという考え方です。第二は経済、端的に言えば会社の時代です。所属している会社が成長発展していけば、役員社員家族も一緒に幸せになれると考えられた時代です。第三は個人の時代で、一人ひとりの人生の目標を認めあって自分と他人を大切にできる時代です。
 一九九〇年以来の長期不況のなかで、会社の時代から個人の時代へと変遷しつつあり、幸せの基準が移る数十年に一度の転換期にあり、私たちはいま歴史的チャンスに生きています。各方面において「改革」が叫ばれている背景もここにあります。司法改革という言葉が多用される半面、数年後の弁護士業務のイメージが描けないという、ストレスの大きい時代でもあります。しかし、「なぜ日本の知識人はひたすら権力に追従するのか」とカレル・ヴァン・ウォルフレン氏に批判されるように、「しかたがない」という決まり文句に行き着いてはいけないし、ブラックボックスの中でつくられたシステムに従うときではないと思います。
 当番弁護士、法律相談センター、ひまわり基金・公設事務所など、平成に入ってから次々と新しいシステムをつくってきました。そこには異質の組み合わせ(ペアシステム)があり、串(PM)になった弁護士がいました。ケースDを解消するためには弁護士の過疎・偏在や全国配置の課題が最重要と考えますが、都会と地方の異なる価値を串ざしにして、新しく「地域」と弁護士のあり方を創造していくことにより、個人の幸福づくりに役立つ新しい職業観を実現するシステムがつくられると確信しています。
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